6.死装束の女
一年ほど前の出来事です。
その当時、新しい家を探していました。
老父母を抱えていた実家では、いざというときに備え、親戚の多く住む町に引っ越そうという話になっておりました。
しかし、簡単に物件は見つからず、ただ見て歩く徒労に終わっておりました。

ある日親から仕事場に電話がありました。
「いい物件が見つかった。そこに決めようと思うのだが…」と。
そして数日後、その家を見に行きました。その家は高台にあり、よく言えば、ひっそりとした閑静な場所。
悪く言えば不気味な所でした。回りは木々に囲まれ、薄暗く湿っぽかったと記憶しております。

しかし、親ははしゃぎながら良い家が見つかったと、やたら業者の人に感謝を伝えていました。
私もなんとなく気味が悪いながらも、まあいいかという気持ちになっていました。

今思えば、すでにその時には始まっていたんだと思います。


ただ弟だけは、やめたらと遠回しに言っておりました。
弟はすでに一人暮らしをしており、その辺りはよく車で走っており夜中、その家の前の道を通るとき、何とも言えない不気味さを感じていたそうです。
話はかなり進み、契約云々という所まで進んだ頃、夜に、たまたまその家の近くを車で走っていました。
そして、何とも言えない感覚におそわれ、誘われるようにその家へと車を走らせていました。
ひっそりとした暗い細い道を車は走っていきます。
両側は住宅街になっているのですが、明かりも見えず、車のヘッドランプだけが暗闇を照らしていました。

家は闇の中に立っていました。
辺りは確かに不気味です。
しかし、まあ、こんなもんだろうと思い、すぐに帰ろうとしました。
車を切り返そうと、ちょっと開いた所へ車の頭を入れ、バックしようとした次の瞬間、


フロントガラス一面に女性の顔が。
もっと厳密に言えば、頭の中一杯その女性の顔が占めています。


きた!!と思い、あわてて車を下げようと後ろを振り返ると、
その女性が立っています。
白い着物を身にまとい、赤い帯、赤い唇、そして精気のない顔が目に飛び込んできました。
やばいと思い、それでも車を下げ、何とか逃げようとしましたが、今来た道がありません。
回りの景色も闇に包まれ、何も確認出来ません。

車のライトはついているはずです。
しかし、闇のなかに大勢の人影が、何故かそこだけ浮かんで見えます。
その先頭には先ほどの女性がいます。
大勢の人々は見窄らしい衣服をまとい、汚れ、疲れ切った顔をしています。
かなり昔の農民にみえました。 女性は多分、死装束でしょう。

それを見ていたのはほんのわずかな時間です。
しかし、その間にその女性の意識と思える物が頭の中に流れ込んできました。
しかし、今はそんなことにはかまっていられず、一発勝負で道があると思われるところへ車を走らせました。
そして次の瞬間、先ほどまでの闇が嘘のように晴れ、先ほど走って来た道が目の前にありました。
振り返ってみても、もう何も見えません。

私はあわてて家に連絡をし、契約をやめるよう促しました。

翌日、私はもう一度その場所に、昼間向かいました。
車を切り返した辺りを見回すと、確かに空間がずれています。
木々で紛れていますが、ずれていると思われる箇所がいくつか見えました。
そして、高台から下を眺めると、谷の中に住宅が並んでたっています。
それは、半ば無理矢理作った集落に見えました。

彼らは都から逃げてきたそうです。
誰にも見つからないように、ひっそりとこの山間に村を作ったそうです。
ただ、時として旅人がこの村を訪れることがあったそうです。
旅人は、二度とこの村からは出られませんでした。
彼らは誰にも見つかってはいけない理由があったそうです。
そして、その意志は未だに続いているそうです。
彼らの幸福のために…。

女性が訴えてきた意識です。
その女性は指導者か、もしくは指導者の娘か何かでしょう。
しかし、その時でさえ、すでに彼女は死んでいたと思われます。
しかし、指導者を求めた農民たちが、彼女の意識は死なせなかったと感じました。
彼女の顔には、そんな寂しさも浮かんでいた様に思います。
多分、それも彼らの幸福のためにでしょう。

多分そうとう昔の話だと感じました。
家は今、どうなっているか分かりません。
私の師匠に(霊感の)二度と行くなと言われているからです。

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